2-26 Kiss You

前回で「Self Control」期は終わり、
本日から第2部は、最後の1/4の「humansystem」期に入ります
夏一杯はかかるかと思いますが、しばらくお付き合い下さい


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TM NETWORKの5thアルバム「humansystem」のレコーディングは、
1987/7/8から始まった
このアルバムについては章を改めて触れるが、
レコーディングが完了したのは9/18のことだった


その中で9/8に最初にトラックダウンされたのは「Resistance」だった
これは「Self Control」に収録される予定だった曲であり、
「Get Wild」路線の売れ線の曲として、
先行シングル候補に挙がっていた


これに対して翌9/9、
「Kiss You~世界は宇宙と恋に落ちる~」が完成した
こちらもスタッフの間で評判が良く、シングル候補となった
本来は渡辺美里に提供する予定だったものをTM用にしたものだったという


ただし同じシングル候補と言っても、
こちらは「Resistance」と違い、
それまでのTMの方向性と大きく異なるものだった
ギターのカッティングやブラスなど生音を積極的に取り入れ、
ロック的な要素が強まっている
この点で「Self Control」のポップス路線とは大きく異なる


「Resistance」との違いをいえば、
歌謡曲的なとっつきやすさを排除した作りでもある点も挙げられる
聞きやすさ、とっつきやすさという要素は、
「Come on Let’s Dance」以来のTMの一貫した方向性で、
しかも時を追うごとに強まっていった
そしてその結果として、「Get Wild」の大ヒットにつながったわけである
その方向性がいったん逆戻りするのが、「Kiss You」の時であった


もちろん目下のセールスを考えれば、
次は「Resistance」で行くべきだった
しかし「Resistance」「Self Control」の延長上の音である
これに対して「Kiss You」は、
「humansystem」で出した新しい要素を、
エッセンスとして凝縮しているところがあり、
アルバムの先行シングルとして呈示するにはむしろふさわしかった


最終的にアルバム先行のシングルとして選ばれたのは「Kiss You」だった
小室は「Resistance」を推しており、
当初はそれで行くことになっていたのだが、
プロデューサーの小坂洋二の意見で「Kiss You」になったのである
小室も初めは悩んだが、
長くTMを続けるならば「Get Wild」ぽいものでずっと行くのは良くないと考えなおしたという


「Get Wild」の次のシングルは、
TMを一発ヒットで終わらせないための重要なものだったはずだが、
このタイミングで「Kiss You」を選んだことには驚かざるを得ない
そして実際に、「Self Control」「Get Wild」「Resistance」「Beyond The Time」「Seven Days War」「Come On Everybody」など、この前後の著名なシングルと比較すると、
「Kiss You」だけ知名度の点で劣ると言う印象がある
一見すると「Kiss You」は失敗したかのように思われる


しかしながら、曲自体は世間で定着しなかったとしても、
「Kiss You」のインパクトはかなりのものだった
自分もこれを最初に聞いた時、理解できたかはともかくとして、
とにかくすごい曲だという印象だけは持った
長い目で見た場合、先鋭的なミュージシャンとしてのイメージを強烈に印象付けるには、
むしろ「Kiss You」シングル化は妥当だったのではないかと思う
この点では、「All-Right All-Night」と同じ位置づけである


また実はTMのライブにおいては、世間での知名度とは逆に、
「Resistance」「Beyond The Time」「Seven Days War」は、
ほとんどライブで演奏されず、ベスト版に収録されることも少なかった
終了直前から復活後においては、
「Seven Days War」などはそれなりに重要な位置を占めるようになるが、
むしろ同時代においては知名度の割には低い扱いの曲だった


これに対して「Kiss You」は当時からメンバーの評価が高く、
今でも古くないなどと言われている
確かに今でも若い人に聞かせられるシングルとしては、
もっともお勧めな曲かと思われる
1989年にはリプロダクションシングルとしてもリリースされている


またライブの定番曲でもあり、しかも一つの核となる曲であり続けた
2000年開催のTM復活後最初の記念フルライブ「Log-on to 21st Century」でも、
一曲目はこの曲だった
(世間一般ではなく)ファンの間での人気も、むしろ高い曲だった印象がある
自分も「Resistance」「Beyond The Time」でTMにはまったのだが、
CDで聞き始めると、むしろ「Kiss You」にはまったという過去がある


結論を言えば、小坂が「Kiss You」をシングルに選んだのは、
目先の売上などにとらわれず最先端の音をアピールしようという野心的・前向きな選択であったと評価でき、
そしてそれは確かに長い目で見れば正解だったと思う


この曲の基本情報を挙げておこう
発売は1987/10/1で、チャート4位を獲得した
「Get Wild」の勢いに乗って、
前作の記録(初動26位、最高位9位)を一挙に更新した
これは翌年8月の「Seven Days War」までTMの最高記録となる


売上は10万枚(1989年のCD化で11万)で「Get Wild」の半分だが、
「Get Wild」の売上はタイアップ効果も込みのことであり、
しかも「Kiss You」直後にアルバム発売が控えていたことを考えれば、
それほど低いというわけではないだろう
むしろこの時点でのTMの人気の実態を表した数字と思う
8か月前にくアルバムの先行シングルとしてリリースされた「Self Control」の3万枚と比べれば、
大幅な上昇であることは間違いない


カップリングには「Self Control (Version “The Budohkan”)」が収録された
これは6月の「Fanks Cry-Max」のライブ音源である
ただしこの曲の映像は1989年にライブビデオ「Fanks The Live Ⅰ」に収録されたため、
音源については現在ほとんど価値がない
(ただし音のミックスはビデオと異なる)


「Kiss You」は、CDで発売されなかった最後のシングルである
この後に1989/9/21にシングルが一挙にCD化されたが、
対象となったのは「Get Wild」までで、
なぜか「Kiss You」だけ外されてしまい、1989/12/9にCD化された


これについて当時は何か意図があるのかと勘ぐったが、
小室がラジオ番組「Come On Fanks!」で、
「忘れてたんです」と笑いながら暴露していた
(もちろん小室のせいではなくスタッフのせいだろうが)
当時オリコンではこの再発シングルが「Kiss You (Self Control Version)」と、
意味不明のタイトルでランクインしていた
(カップリングの曲名が混ざったもの)


ジャケットは3人の後姿を撮影したものである
ロゴはそれまでと同様、装飾性のないシンプルなものである
なおTMのロゴは「TM NETWÖRK」という表記となった
(正確には「O」の上のウムラウトは中に入る)
これは「humansystem」期(「Beyond The Time」まで)に用いられた


レコーディングでは、ギターに鳥山雄司、ドラムに青山純が参加した
ロック的な音であることはすでに触れた通りで、
「Self Control」期の楽曲とは印象がかなり違う
しかし小室としては、この曲はDuran Duranの他、
Trevor Hornを意識したものだったという
「Self Control」がTrevor属するThe Bugglesの「Video Kills The Radio Star」を意識していたことを考えれば、
実は小室の意識の中では制作中のある時期まで、
「Self Control」とはそれほど大きな違いはなかったのかもしれない


歌について特徴的なのは、
Aメロがラップ的な作りになっていることである
デモの段階ではこの傾向がさらに強く、完全なラップである
後に「Digitalian is eating breakfast tour」で小室が歌った時も、
ラップ的な要素が強くなっていた


また英語が大変多く、しかも早口である
特にサビが難しい
「Where you gonna go tonight?」などは、よほど熟練しないと無理だろう
TM歴代シングル中で、カラオケが一番困難な曲は、
おそらくこれと「Happiness×3 Loneliness×3」(スペイン語)である
そもそも歌謡曲的に口ずさむ形での普及を想定していなかったのだろう


それとともに特徴として挙げられるのは、
宇宙的・近未来的な雰囲気である
イントロや間奏で宇宙船の無線通信の音を入れ、
宇宙から地球へのメッセージであることを表現している


その内容は小室の声をサンプリングしたものと思われ、
「we are in human system」「we are born on the earth」など、
「humansystem」のキーワードも盛り込んだものとなっている
デモテープでもイントロに「I was born in the earth」という歌詞があり、
当初から小室が考えていた方向性だったことが分かる


ここではTM(小室)が自ら地球人であることを表明しているが、
そのメッセージは宇宙から地球に向けて送られている
現時点(1987年)の彼らは宇宙から地球を見守る存在であるという設定なのであろう
そしてそれは、デビュー当初のTMの設定であり、
それがブレイク後の初の新曲である本曲で復活したことになる
この点は、後述のPVの内容からも明らかである
小室みつ子の歌詞も、このコンセプトを踏まえた上で、
宇宙から地球人に向けて発せられた警告となっている


不可能な夢を見るのはFool or Crazy Thay Said
リアリストたちが笑う So What
Car,telephone, spaceship, so many things 君を取り巻いた
かつては夢だった現実気付いているか

この曲のサビの部分は、
「I Kiss You for Bright & Dark」
「I Kiss You for Black & White」
「I Kiss You for Old & New」
「I Kiss You for Good & Bad」
という形で、「I Kiss You for~」を繰り返す


ここで「Kiss」とあるのは、
宇宙人がメッセージを伝えるために地球人に接触することを、
接吻の比喩で表現したもののようである
小室も、「「Kiss You」は、地球と月との“Human System”」と述べており、
つまり「Kiss」とは宇宙のTMと地球のファンの関係の象徴である
タイトルから受ける印象とはまったく違う内容の歌詞といえよう


こうした世界観は、「Kiss You」のPVからもうかがうことができる
「Gift for Fanks Video」「All the Clips」に収録される
人気の高いビデオで、あるいは一番人気ではないかとも思う
とりあえず自分の中ではこれが一番である


イントロで流星の流れる映像が出て、
次いで「Fanks Cry-Max」のライブ映像が流れる
「Self Control」間奏、メンバー間でバトンを渡すシーンである
最後は小室がウツから受け取ったバトンをシンセブースの奥に送り出すが、
ここで画面は宇宙から見た地球の映像に変わり、バトンは地球に向けて落ちていく
この映像から、「Fanks Cry-Max」の会場が宇宙に擬せられていたこと、
バトンが宇宙から地球に向けて送り出されたメッセージの象徴だったことが分かる


ビデオの中のメンバーは、「Fanks Cry-Max」のコスチュームを着ており、
月面にいてディスプレイを通じて地球を観察する存在として表現されている
ウツが地球上にいるシーンもあるが、
その時も背後に月が見えており、
宇宙から地球に降り立った存在であることを暗示している


なおこの頃からTMには専属のダンス指導が付くことになった
そのためそれ以前の微妙なフォーメーションダンスとは一線を画す、
普通にかっこいいウツのダンスを、このビデオでは見ることができる


メンバーの映像とともに多く流れるのが、
戦後の日本や世界の出来事を映したドキュメンタリ映像である
小室はPVで、宇宙開発の裏で多くの事件があったことを示そうとしたという
この過去の映像群は、PVの設定上では、
TMメンバーが宇宙から見守ってきた地球の姿を示している
地球の現状を憂える彼らメンバーが地球へ送ったメッセージとしての「Kiss You」
あるいは異世界の住人の地球人との接触の象徴としてのKISSという設定を理解することができよう

KISS YOU
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