4-17 月とピアノ

1986年の「FANKS」、1988年の「T-Mue-Needs」、
1989年の「FANKS!! '89」、1990年の「リニューアル」など、
新たな活動を始めるたびに、
常にキャッチフレーズを提示してきたTMだったが、
1991年のTMNのコンセプトは「月とピアノ」だった


これは小室がレコーディングスタジオで、
ピアノのある部屋からガラス張りの屋根を通して月が見えたことから、
思いついたフレーズだったらしい


小室によれば2月初め、
「We love the EARTH」CM用テイクのレコーディング時には、
ピアノをテーマにすることが決まっていた
この曲では実際にピアノが目立つ形で入っている
この時点で「月」も確定していたのかは明らかでない


確実なところを追ってみると、
小室は1991/3/27発売の「GB」5月号のインタビューで、
音楽のまとめ役として月とピアノを取り上げることを述べている
まだ必ずしも「月とピアノ」というキーワードは前面に出ていないが、
コンセプト自体はこの時点で固まっていたと見て良いだろう
「Rhythm Red Tour」は3/13に終わったから、
ツアー終了とともに次を見据えた発言を始めたことになる
1991/4/20の小室ソロライブ「THINK of EARTH」では、
MCで「月とピアノ」に言及されている


なお「EXPO」の後、1991/10/20に発売された「K'z Magazine vol.3」には、
小室作曲の「月とピアノ」というインスト曲が収録された
実際にはシンセで作った曲で、生ピアノ曲ではないのだが、
「月とピアノ」のコンセプトをテーマにした楽曲である
以前触れた通り、当時EOS B500のCMでも使われ、
後に2003年、「キヲクトキロク」に収録された


「月とピアノ」のコンセプトを前面に出してリリースされたのが、
8枚目のオリジナルアルバム「EXPO」だった
本作ではエレキピアノも含めれば、たしかに多くの曲でピアノが使われている
ただしピアノメインの曲となると、
「月はピアノに誘われて」「Think of Earth」くらいである
両曲は「月とピアノ」をテーマとして意識的に作られた曲だから、
特にピアノがメインになったのだろう


他に「Jean Was Lonely」「あの夏を忘れない」も、
比較的ピアノパートが目立つ曲だが、
他はとりたててピアノが重要な位置を占めているとも思えない
(その他、逆回転前の「EXPO」も実はピアノが中心)
なお「We love the EARTH」はシングル版ではピアノが目立っているが、
「EXPO」収録の「Ooh, Ah, Ah Mix」では雰囲気が一新されている
少なくとも「EXPO」の音だけを聞いて、
ピアノがメインテーマだと感じる人はほとんどいないだろう


「Gorilla」はファンクミュージック、
「CAROL」はミュージカルをメインコンセプトとしながら、
実はそれに沿う楽曲は全体の半分程度だった
しかしアルバムを通して聞いた場合、
これらのメインコンセプトは確かに伝わってくる


先行シングルがダンサブルなアップチューン「Come On Everybody」であっても、
「CAROL」全体のイメージはやはり、
「A Day in the Girl's Life」であり、「Just One Victory」である
その意味で本作のミュージカルというコンセプトは成功している
次の「Rhythm Red」はさらに明確に、
ハードロックを目指したアルバムであることが伝わってくる


これに対して「EXPO」の場合、
最も印象の強い曲はおそらく「Just Like Paradise」「Crazy for You」当たりで、
印象に残るのはピアノよりは、ハウスでありクラブサウンドであろう
実際に「EXPO」を紹介する場合は、
ハウス・クラブサウンドの影響が強いとされる場合が多い
そしてそれは、当時小室が最も関心を持っていた音でもあった


となれば、ピアノというコンセプトは、
「EXPO」の中で事実上破綻していると言うほか無い
初めの頃にレコーディングされた楽曲ではピアノが強調されているから、
当初は本当にピアノメインで行くつもりだったのが、
レコーディングの過程で小室の関心が強く出てきてしまったと見ることも出来るかもしれない


ただ小室哲哉個人に関する限り、
ピアノが1991年の重要アイテムだったことは事実である
まず4/20・21に行なわれたソロライブ「THINK of EARTH」では、
ピアノがメインの楽器の一つとして使われた
さらにミュージカル「Mademoiselle Mozart」の楽曲製作を依頼された際、
モーツァルトがテーマと言うことで、
やはりピアノが一つのメインとなった


1991年は折しもモーツァルト没後200周年であり、
この頃の小室はモーツァルトに関する発言が多い
小室とYOSHIKIが結成したユニットV2でも、
モーツァルト没後200周年記念のライブを行ない、
そこでもピアノが多く使われている

ピアノと言えば忘れてはならないのは、
「Tour TMN EXPO」で使われた特注のEXPOピアノだが、
その制作は1990年12月にYAMAHAに発注されており、
この頃には翌年のツアーでピアノを使うことは決まっていたはずである


あるいは「Mademoiselle Mozart」の依頼がきっかけで、
TMNでもピアノを使おうという発想が小室に生まれたのかもしれない
「Mademoiselle Mozart」の依頼は1990年6月頃のことで、
「Rhythm Red」のレコーディングの真っ最中のことだった
すでにこの頃には、次の活動のことを念頭に置いていた可能性もある


詳細は不明だが、1990/12/12「Rhythm Red Tour」の移動中に、
小室が木根に「TMNの次に関する話」をした
それは木根の次作の小説にも関わる話だったともいう
木根の小説とは、3月末日から執筆を開始した「月はピアノに誘われて」のことに違いないが、
本作は「EXPO」との連動企画で、
やはり「月とピアノ」をコンセプトとしていた
おそらく小室はこの時点から、
木根の小説とTMNの次回作を連動させることを考えていたのだろう


1991/1/7には、小室が「次のツアーやアルバムに関するコンセプトが閃いた」として、
ツアープロデューサーの村田正樹と相談をしている
次のツアーで何をしたいか、何ができるかを話し合ったのだろう
同じ日、小室は木根ともTMNの次のアイデアについて話している


「月とピアノ」のコンセプトの原型になる構想は、
この頃から固められてきたものかもしれない
2月初旬にピアノを用いた「We love the EARTH」のレコーディングが行なわれる事を考えると、
ピアノを大々的にフィーチャーすることはこの頃に決まった可能性もある
いずれにしろ小室は「Rhythm Red Tour」と並行して、
次の活動のコンセプトを考え続けていたのである


以上が「月とピアノ」の内の「ピアノ」についてだが、
もう一方の「月」についても見てみよう
「ピアノ」は音と関わるコンセプトだが、
「月」はテーマ・歌詞と関わっている


人が地球であるとすれば、月はピアノに対比されるという旨を、
当時の小室は発言している
または地球が弾き手で月がピアノという比喩もしている
小室はまた、地球を俯瞰して見る視点の重要性も述べており、
我々人間を見守る存在の象徴として月を取り上げたらしい


「EXPO」収録曲には、
人間の居場所としての「地球」や、地球を相対化する存在としての「宇宙」などを歌詞に含む曲が多い
「We love the EARTH」「Love Train」「Just Like Paradise」「月の河」「大地の物語」「月はピアノに誘われて」「Tomorrow Made New」「Think of Earth」と、
全体の過半数に当たる8曲がこれと関わっている


この点で見れば「月」に象徴される「地球を俯瞰する視点」は、
確かにアルバムのメインテーマとなっているように見える
特に「We love the EARTH」「Love Train」「大地の物語」「Think of Earth」は、
環境問題を意識したフレーズが入っている
これらはいずれも小室の手がけた歌詞であり、当時の小室の関心を示している


ただし「月」「地球」「宇宙」というキーワードや俯瞰の視点は、
この時に初めて現れたものではなかった
1987年の「humansystem」期、特に「Kiss You」の中には、
明確にこうしたコンセプトが含まれている
「Kiss You」のPVや、
ツアー「Kiss Japan Dancing Dyna-Mix」のオープニング・エンディング映像も、
こうしたコンセプトを反映したものであり、
メンバー自らが宇宙からメッセージを伝える存在を演じていた


もともと俯瞰する視点や宇宙空間というコンセプトは小室の好みであり、
それが環境問題という意識と合わさって出てきたのが、
この時期の特徴と言えるだろう
ちなみに小室がこの後環境問題に言及することは管見になく、
割と短い関心だったようである


個人的に、以上のコンセプトをもっとも直接的に表現している歌詞は、
「Think of Earth」と思う
曲名からして、まさしく環境問題を意識した曲であり、
その意味で「EXPO」のテーマソングと呼んで良いと思う


「We love the EARTH」も環境問題を意識した曲名だが、
こちらはコンセプトがまとまる前の2月にサビが作られており、
その点で「Think of Earth」の方が、
より固まった段階でのコンセプトを反映している

街の灯(ひ)を遠くにながめてる僕たち
幼い日見つけた君の夢捜すよ
惑星は泣いていた争いや欲望に
今君は気づいてる傷つき出す星を
Think There is no Space
Think There is no Mercy
地球では君の歌言葉より優しく輝いて届くよ
宇宙(そら)からのメッセージ
Think of Earth


日常を過ごす我々人間(「僕たち」)によって惑星=地球が傷つけられている現実を訴えた歌詞である
この歌詞には、「君」という単語が三度出る
これは曲を聞いているリスナーを指しているとも考えられるが、
別の考えもできる


歌詞の最後では、「君」の歌が地球に届き、
次いで「宇宙からのメッセージ」「Think of Earth」というフレーズが、
文章にならない形で登場して締められる
「宇宙からのメッセージ」とは、文脈と語義から見て、
地球に届いた「君」の歌と同じものだろう
つまり「君」とは宇宙にある地球外の存在であり、
それは「月とピアノ」のコンセプトを考えれば、
月にほかならないと思う


そしてラストの「Think of Eath」=「地球のことを考えよ」というフレーズは、
「宇宙からのメッセージ」の内容と考えられる
CDでもこの前までは小室が歌っているが、
「Think of Earth」のフレーズだけはコンピュータで合成された声で収録されている
月のことを考える地球人の思いを小室が、
地球に届いた月のメッセージを合成音が表現しているのだろう


つまりこの曲は、「月」という単語こそ出ないものの、
テーマは月であると考えられる
この曲での月は、地球を見守り危機を人間に伝えようとする存在であり、
歌詞の中の主人公は地球の上から月の存在を感じ、呼びかける存在である
別の形で書けば、「Think of Earth」というメッセージを受け取った小室による月への返答ということでもある
月を見たことがきっかけになって、地球規模の問題を俯瞰的に考えてみたというモノローグを、
より詩的に表現したとも言えるだろう


このことを前提として歌詞全体を解釈してみよう
最初の2行は厳密な解釈は難しいが、
一案を示せば「街の灯を遠くにながめてる僕たち」は、
街の灯=目の前のものすら遠くに感じる人間であり、
人類が地球規模の広い視野から物事を考えられないことを表現しているのだろう


「幼い日見つけた君」というのは、
「君」=「月」を踏まえれば、
小室が幼い頃に見た月のことである
無論月は幼い頃にしか見えないものではないが、
大人になった今は身の回りのことにとらわれ、
月の存在に気づかなくなっているのだろう


「君の夢捜すよ」の「君の夢」は、月が抱く願いである
これは月が地球に届けた「君の歌」「宇宙からのメッセージ」と同じである
身の回りのことにしか気がつかなくなっていた自分が、
改めて月の願いを感じ取ろうとすることを、
「捜すよ」と表現しているのだろう
その結果気づいたことが、
後の部分に見える、地球が傷つき苦しんでいるという事実だったのである


以上が正解だとすれば、
おそらくこれは小室がスタジオでピアノを弾いている時、
普段意識していなかった月灯かりに気がついて、
感動した時の体験を基にしていると考えられよう
言葉使いが巧みかどうかはともかくとして、
割と気の利いた歌詞ではないだろうか
この時期の小室詞では、
「We love the EARTH」「Love Train」などよりも、
はるかに趣きがあると思う


最後に「月とピアノ」の象徴的存在だったEXPOピアノについて触れよう
これはYAMAHAの制作である
小室は未来的なマシンのイメージと人間を静かに見守る大木のイメージを併せ持った、
まったく新しいピアノを作りたいと思ったという


小室演奏中のEXPOピアノ


当時のYAMAHAの技術を駆使して制作され、
演奏した全てのデータを保存する機能もあった
ライブで使われるということで、デザインも重視され、
曲線を表現するため2mmの樺の板を65枚積み重ねて作られた


このピアノは1990年12月に発注され、約4ヶ月の期間をかけて制作された
発注から制作開始まで多少のタイムラグはあったとしても、
1991/8/5「Tour TMN EXPO」リハーサル以前には完成していただろう
なおテレビ番組では制作に一年以上を要したと言っているものもあったが、
それだと発注以前から制作していたことになり、考え難い


このピアノは、「Tour TMN EXPO」で大々的に宣伝され、
ツアーの象徴的存在となった
そのためピアノはアルバム「EXPO」よりも、
ツアーに付随した印象が強いファンが多いと思う


EXPOピアノは以後も小室の愛蔵品となり、
プロデューサー期の作曲にも使われた
YAMAHAにも一台保管されているらしい
一方小室保管分と思われるものは、小室逮捕後の2014年、
Yahoo!オークションで業者によって出品されたことがある
(入札開始価格3000万円)
結局オークションでは落札者は出なかったようで、
その後どうなったかは不明である

(2009/10/12執筆 2011/1/5・2012/11/19・2017/11/23加筆)

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この記事へのコメント

GAUZE
2009年10月12日 23:03
こんばんは。Rhythm Red期に続きEXPO期の記事も楽しく拝見しております。「Think of Earth」の歌詞の素敵な解釈が良かったです。「君=月」とすることで、また違った深みが出てきますね。それにしても月をバックにしてEXPOピアノを弾く小室さんはやっぱりカッコイイです。

P.S.
僕も18日のSMALL NETWORKに参戦します。僕は立見ですが、じっくり楽しもうと思います。ひょっとしたら蒼い惑星さんに会えるかも?。
蒼い惑星の愚か者
2009年10月19日 01:36
今日、一緒の会場にいらっしゃったんですね
ウツは今日も楽しそうでした
木根さんとかも来てたみたいですね

本当は今日、簡易レポも兼ねて更新するはずだったんですが、諸事情で来週までできなくなりました
全然進まなくてすみませぬ
まさと
2009年10月19日 12:06
こんにちは。
いよいよEXPO期に来ましたね。
この時期はイベントも多数あったり、wowowでスペシャル番組があったりと何かと話題豊富でしたね。
ちなみに、1曲目のEXPOもピアノの音の逆回転だから、これもピアノがフューチャーされた曲と言えるかもしれませんね(笑)
アザラシ
2009年10月22日 23:04
ようやく木村氏の裁判も終わりました。懲役3年執行猶予4年だそうで、このまま控訴しなければ11/4に刑が確定します。

てっちゃんの逮捕された日からちょうど1年で一区切りが付きますね。てっちゃんには無事に執行猶予期間を終えて欲しいという思いでいっぱいです。
蒼い惑星の愚か者
2009年10月24日 22:25
>まさとさん
EXPO期は話題が多いのです…
もちろんファンとしては嬉しい時期だったんですけど、まとめる情報量は、TM全期間を通じて一番多いかな(^^;
確かにEXPOもピアノ曲と言えば、そうですね(笑
こっそり直しておきます

>アザラシさん
裁判終わりましたね
おっしゃる通り、一つの区切りはついたと感じます
でも、まだ一年なんですね
逮捕がえらく昔のことのように思えてしまいます
一年後には小室さんがもっと幸せになれていると良いですね



かしこ。
2017年11月25日 00:43
単刀直入にて失礼します。
EXPOピアノについての補足情報です。

下記は、以前のヤフオク出品情報。

ヤフオクに日本に2台しかない「小室哲哉スペシャル EXPOピアノ」が出展されてるぞ! 開始価格3000万円から – ガジェット通信 GetNews

https://www.google.co.jp/amp/getnews.jp/archives/517843/amp


ヤマハ保有EXPOピアノの、最新情報。

ヤマハピアノ掛川 工場見学に行って来たった!(2017年4月某日) - キーボーディスト、脱初心者を目指す

http://kblovers.jp/music/412-yamaha-harmonyplaza-kakegawa/

参考まで。
青い惑星の愚か者
2017年12月08日 01:25
ヤフオク出品、当時ニュースになっていたんですね

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  • Paradise Kiss paradise

    Excerpt: 4-17 月とピアノ視点などは。この時に初めて現れたものではなかった 1987年の 「humansystem」 期、特に 「Kiss You」 の中には、 明確にこうしたコンセプトが含まれている 「K.. Weblog: アニメ&マンガなどの情報紹介 racked: 2009-10-18 11:52

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